大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和47年(く)18号 決定

少年 T・T(昭二七・七・一三生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立の理由は、抗告人連名の別紙抗告申立書記載のとおりであるが、要するに、少年は本件交通違反の非行につき反省し、大学生として健全な日常生活を送つており、また、両親も健在であつて少年の監督指導に心がけているので、少年をその名誉のことも考えず、他の非行少年と同じ場所で監督する保護観察に付した原決定の処分は著るしく不当であるというのである。

よつて、本件少年保護事件の関係記録を調査するに、少年は前に無免許運転の罪を犯し、その後間もなく運転免許を受けたものの、更に本件速度違反の犯行を敢行したものであつて、その違反態様は、国道三号線上において、特に必要な事情もないのに法定速度毎時五〇粁のところを毎時七七粁の高速で普通乗用自動車を運転した危険なものであり、検察官は家庭裁判所に事件を送致するに当り、刑事処分相当の意見を付したものであることが認められる。これらのことにかんがみるときは、少年が将来交通法規に違反しひいて重大な交通事故を惹起し少年自身に不幸を招くことはもちろん一般世人に対し迷惑を及ぼすことがないよう、順法意識を喚起し、交通法規等を遵守する精神を培うために、適切な指導監督を行うことが必要であり、そのためにはこの際早期に、専門の担当者によつて指導する保護観察に付するのが最も適切な措置であると思料される。

ところで、本件の如き非行に対する保護観察は、専門の担当者が少年保護の見地から、在宅の少年に対し個別に面接し、適切に指導監督し、保護者の指導監督と相俟つて少年の保護育成をはかるものであるから、保護観察をもつて他の悪質な非行者と共に監督されるものであり、少年の名誉を損い、その健全な育成を害し、少年に対する保護者の監督を排斥するものであるかの如き所論は、保護観察制度の趣旨と実施の方法およびその効果を誤解したものであつて、保護観察には所論の如き危惧は存しない。

そうしてみれば本件保護事件につき審判の結果少年を保護観察所の保護観察に付する決定をした原裁判所の処分は相当であつて、記録を精査してもこれを不当とすべき事由を発見できないので、本件抗告は理由がない。

そこで、少年法三三条一項に則り本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 藤田哲夫 裁判官 平田勝雅 井上武次)

参考 昭和四七年四月二四日付法定代理人親権者父・母の抗告申立書

(抗告の趣意)

今回T・Tが交通違反を致しました事に付きましては本人はもとより親権者であります所の私共も心より反省致しておる次第でございます。規則を守らなかつた事への罰則はお受けするのが当然でございます。しかし乍ら保護観察処分というのは、他の非行(破れん恥な行いも含めて)少年と同じ場所に於て又同じ保護士さんの監督の下に行われるという事です。保護観察というのは学校や親の手に負えない少年を監督し見守つて正しい人間にして下さる所だと思います。T・Tの場合立派に社会人として誇りを持つております所の両親がおります。保護士さんの監督を受ける事は私共親として失格で有りますので大いに考えさせられるのでございます。本人は其の人格行動共に普通の少年であります。否それ以上にクラブ活動に於てきたえられた健全な心と身体を持つております。小学校の時剣道・○南中学バレー部・○南高校ヨット部部長・○大ヨット部に入部致し規則正しく礼儀正しい少年でございます。清く正しく社会に貢献出来る人間として世の中に送り出したいとそれのみ願つて育てて来ました。

此の度の違反により私共の家庭内で車の件に付きましてきびしく処分したい所存にございます。

大人の場合人をひき殺した事件では同じ殺人ですのに交通警察という別の所で裁かれるときいております。少年の場合のみ何も彼も一緒と言うのでは、方法に於て少し異る様に考えられます。罰則のきびしさの云々では有りません。少年の名誉を守つてやりたいのです。

折角少年を温く導いて下さる処分で有りますならば、何とか右の少年の日常の人格行動並に親権者の生活態度環境などお考え下さいまして此の処分の撤回をお願い致します。以上を持ちまして抗告趣意書と致します。以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例